【お客様からのご質問】「会席料理と懐石料理はどう違うのですか?」【しげよし】

2017/07/25

 
前回、料亭についてお話をさせていただいたところ、お客様から「コラムで会席料理について書かれていましたが、懐石料理とはどう違うのですか?」というご質問をいただきました。こういうご質問は大歓迎です。今回は、懐石料理と会席料理の違いについてお話しいたします。
 
■懐石料理はお茶の席、会席料理はお酒の席のお食事です
 
 ごく大ざっぱに申し上げますと、懐石料理は「正式な茶事で供される軽いお食事で、お茶を楽しむためのもの」で、会席料理は「酒宴で供されるお食事で、お酒とお料理を楽しむためのもの」です。
茶事では濃茶と薄茶をいただきますが、お腹が空いているときに濃茶をいただきますと、苦みを強く感じてしまって本来の味がわからないこともございます。そこで、お客様に軽いお食事をお出しして、お腹を整えていただくのです。同音の会席料理と区別するために「茶懐石」と呼んだりするのも、お茶の席で出されるものだからです。
「懐石」は禅宗の修行僧に由来します。修行中の禅僧は昼以外に食事を摂ることが許されなかったため、寒さと空腹をしのぐために懐に温かい石、すなわち「懐石」を入れていました。このことから、「懐石のように、お腹を温めて空腹をしのぐ程度のお料理で恐縮ではございますが、どうぞお召し上がり下さい」という気持ちが込められているのが「懐石料理」なのです。
 
■懐石料理は一汁三菜が基本です
 
 お茶の流派によって違いはございますが、懐石料理の主役はあくまでも後に供される「お茶」。懐石料理は濃茶を美味しくいただいていただくのが一番の目的ですので、通常は一汁三菜の形で、汁、向付(むこうづけ)、煮物、焼物が基本です。汁はお味噌汁が一般的です。向付はお刺身やお酢の物などで、膳の向こう側に付けることからこう呼ばれます。お出汁を使った煮物、旬のお魚などを使った焼物で一汁三菜です。
最近では一汁三菜に加え、強肴(しいざかな)や八寸(はっすん)、吸物が出されることもございます。強肴は和え物や煮合わせなどで、ほんのおつまみ。八寸は8寸(約24cm)四方の杉で作った低いふちのある盆のことで、この盆に盛り付けた料理が八寸と呼ばれます。フランス料理のオードブル盛り合わせのようなもので、旬の物を少しずつ盛り合わせることが多く、こちらも箸休めのようなものです。
 会席料理はお酒を楽しむためのものなので、一汁三菜を基本に、先付けや揚げ物などが出されます。会席料理のメニューについては、前回のコラムをご覧ください。
 
■「日本料理」の様式は「精進料理」「本膳料理」「懐石料理」「会席料理」の大きく四つに分かれます
 
 日本料理、すなわち和食は、「和食;日本人の伝統的な食文化」としてユネスコ無形文化遺産に登録されている文化です。4つの特徴として
 
(1) 多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
(2) 健康的な食生活を支える栄養バランス
(3) 自然の美しさや季節の移ろいの表現
(4) 正月などの年中行事との密接な関わり
 
が挙げられています。
 世界的に評価されている日本料理は、ある一定の様式を保ちながら、脈々と日本に受け継がれてきました。「料理を一定のしきたりに従って配膳する形式」や「食事の作法」が成立したのは、平安時代以降だといわれています。
貴族食として儀式や接待のため、食べきれないほどの量を美しく盛り付けた「大饗(だいきょう)」が生まれる一方で、鎌倉時代には道元、栄西といった僧侶が質素ながらも美しい「精進料理」を広めていきました。精進料理は動物性食品やにおいの強い野菜が禁じられ、大豆や野菜など植物性の材料を使っています。また、「雁もどき」のように肉や魚に見せかけた「見立て料理」、四季折々の野菜を献立に折り込む手法などは、今も受け継がれています。
 そして、室町時代に誕生したのが、貴族(公家)の華やかな食文化と、質実剛健な武士の食文化が融合した「本膳料理」です。本膳料理は式三献(しきさんこん・大・中・小の杯で一杯ずつ飲んで膳を下げることを三回繰り返す)、雑煮、本膳、二の膳、三の膳、与の膳(よのぜん、四をしと読むと死に繋がるため、よのぜんといいます)、五の膳と、硯蓋(すずりぶた・盆状の器に肴を盛る)など7種類のお料理が配膳されます。本膳料理は「元服」など武家の儀式料理として完成し、礼式を重んじたとても厳しい料理作法が定められていました。現在でも、皇室のご婚礼などでは本膳料理の流れをくんだお料理が出されています。
 そして、茶道が普及した安土桃山時代には懐石料理、江戸時代前期には本膳料理を簡素化した袱紗(ふくさ)料理が誕生しました。袱紗料理の「袱紗」は袱紗袴(ふくさばかま)という普段着に由来し、袱紗で食べられるかしこまらないお料理、といった意味合いです。
 こうして、本膳料理が袱紗料理へと変化していく中で、「くつろいだお食事」という概念が発達していった影響を受けながら、かしこまった本膳料理が、武士や町人がお酒とともに楽しむ「会席料理」へと発展していったのです。
 
■おくつろぎになりながら、会席料理をお楽しみください
 
 このように、会席料理は本来、「くつろいで」召し上がっていただくお料理でございます。私どもの仕出しも、私どもが料亭でお出ししているお料理と同じように、お客様にリラックスしていただけるようにと心を込めておつくりしております。皆様が大切な方々と過ごされるひとときを、私どもしげよしが彩らせていただければ幸いでございます。