【食材のこだわり】あしらいその2:つまもの【しげよし】

2017/10/13

 
前回は、和食の「あしらい」のうち、「掻敷(かいしき)」について書きました。今回は「あしらい」のうち「つまもの」についてご紹介いたします。
 
■「刺身のつま」もつまものです
 
「つまもの」は、料理を引き立てるために用いられる食材や葉、枝花のことです。「掻敷」が主に料理の下に敷くのに対して、「つまもの」は、お料理に添えるような形で横や正面、上に置きます。
一番なじみがあるのは、刺身の横に立ててある大根の細切りでしょうか。あれは刺身の「剣(けん)」といいまして、刺身のつまもの(つま)の一種です。お刺身の横に「剣」のように立てるから「けん」といいます。大根の細切りが刺身の下に敷いてある場合は「敷きづま」と呼ばれます。大根や人参、かぶなどを花などに見立てる飾り切りをしたものを添えた場合は「飾りづま」といいます。
 お刺身に添えられているわかめや紫蘇の葉、紫蘇の花、菊の花、わさびなどはすべて「刺身のつまもの(つま)」です。季節感や彩り、香りを添えるだけではなく、消化を良くしたり、生臭みを消したり、食材自体がもつ抗菌効果で食中毒などを予防したりする効果があります。
刺身の「つまもの」のうち、わさびや生姜などは「からみ」といいます。わかめやトサカ海苔(青とさか)、イギス海苔(えんじ色の海藻)などの海藻類や、ミョウガ、紫蘇の葉などの野菜類は「つま」です。大根や人参を細く切ったものをお刺身の横に立てると「剣」、下に敷くと「敷きづま」、飾りきりをすると「飾りづま」と呼ぶのは、先ほどのとおりです。
 
【206】2017秋 長手二段御膳 いざよい
 
■「つま」の語源とは?
 
「刺身のつま」という場合、つまを「妻」または「褄」と書きます。これは「つま」をどのようにとらえるか、その語源の考え方の違いが反映されています。
「妻」と書く場合は料理全体を家庭に見立て、あるじとなる材料を香りや彩り、抗菌効果などで陰ながら支えて料理(家庭)全体のバランスを取り、「四季」という日本の幸福を醸し出してくれる「つま」は目立たないけれど、料理(家庭)の陰の主役であるという意味合いが込められています。
「褄」というのは物の端っこという意味です。和服の衽(おくみ)の、腰から下のへりの部分を古来より「褄」と呼ぶのですが、そこから転じて物の端を広く「褄」というようになりました。「つまもの」を「褄もの」と書く場合、「端に添えてあるもの」という意味合いとなります。
 いかがでしょうか。昨今の風潮ですと刺身の「妻」と書いたら女性差別といわれてしまいそうですが、料理になくてはならない、素晴らしい存在と讃える「妻」の字を当てるほうが、「つまもの」を表す言葉として合っているようにも思われます。
 
【213】2017秋 秋の会席膳
 
■魚の「つまもの」はくさみを消す「たで」や「しょうが」、「浜防風」がポピュラーです
 
 刺身だけではなく、焼き魚にも「つまもの」がよく使われます。よく見るのは「紅蓼(べにたで)」。タデ科イヌタデ属の1年草である「柳タデ」の変種で、本葉が出る前の幼芽を収穫したものです。「タデオナール」という物質由来のピリッとした辛みがあり、刺身の味を引き立ててくれるだけではなく、抗菌作用にすぐれます。「たで食う虫も好きずき」とは、「茎や葉に独特の苦みがあるタデを好んで食べる虫もいるんだから、人の好みも様々なんですよ」という意味です。
 また、芽しょうがを酢漬けにした「はじかみしょうが」も「つまもの」によく使います。せりのような清々しい風味があって魚のくさみを押さえてくれる「浜防風(はまぼうふう)」という海岸の砂浜に生える多年草もポピュラーです。また、柚子やかぼすなどの柑橘類もよく使います。
  春は「菖蒲」「ヒノキ」「松葉」「つつじの花」「桜」、夏はあじさいの花や柿の葉、秋は熊笹や赤紅葉、冬はゆずり葉や梅、南天など、つまものは四季の演出にぴったりです。ご家庭で焼き魚をされるときも、ちょっと添えてみると食卓が楽しくなります。最近はスーパーなどでも「つまもの」が売られていますので、ぜひ取り入れてみてください。
 
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■町おこしにもなる「つまもの」
 
「つまもの」としてなくてはならないいちょうやもみじ、椿の葉を採取して販売することは、町おこしにも繋がっています。「つまもの」の産地として有名な徳島県上勝町(かみかつちょう)の高齢化問題を解決したのは、1枚のもみじでした。農作物よりも軽くてお年寄りでも採取しやすい葉を「つまもの」として売ることで、町も、お年寄りの心も豊かになりました。詳しくは、株式会社いろどり(http://www.irodori.co.jp/)さんの「いろどりストーリー」を読んでみてください。お料理にも美しさや季節感を求めて追求する日本人の心が、結果的に高齢化に悩む町を助けることになったというのは、とても素晴らしい話だと思います。料理に添えられる「つまもの」にも、いろいろなストーリーがあるのですね。
 

しげよしでは、仕出しの内容やシチュエーション、季節などに合わせて、最適なつまものを使わせていただいております。舌はもちろん、目でもお喜びいただける仕出しでございます。私どもの料理がいろいろな方々に支えられていることを日々実感しながら、皆様の一日を素敵に彩ることができますよう、心を込めておつくりさせていただきます。
ご期待以上の品質をご提供させていただくために、これからもしげよしはおもてなしの心を追求して参ります。お引き立てのほど、どうぞよろしくお願いいたします。