【食材のこだわり】松茸について【しげよし】

2018/09/19

 
松茸と聞くだけで、芳醇な香りが辺りに漂う気がします。
松茸は、言わずとしれた秋の味覚の代表例です。秋になり、松茸を食すことを楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。
香りを楽しみつつ、味わいを堪能することができる松茸を、今回は、様々な角度からご紹介してみたいと思います。
 

■松茸の歴史

 
松茸は日本や中国、朝鮮半島などに分布し、古くから食べられていたことがわかっています。
『日本書紀』には、天皇に「茸」(松茸と推測されている)を献上したことが記されており、『万葉集』にも、松茸を詠んだ歌があります。平安時代になると当時の貴族が季節の行事として松茸狩りを楽しむようになり、『古今和歌集』にもしばしば歌に松茸が登場します。安土桃山時代になると、武士も松茸狩りを楽しみ、江戸時代では一般大衆も松茸を食していたことが料理本に記録されています。
 

■高価な理由

 
松茸は、10~11月とわずかな時期しか出回らず、手に入れたくても、そのお値段に驚いて、躊躇してしまうこともありますよね。
 
主な産地は、長野県、岩手県、和歌山県などですが、年々、海外のものが増えています。身近なスーパーでみられる松茸のほとんどは、韓国産や中国産です。
 
かつては、全国各地の山間地で人の手がほどよく加えられた里山が広がり、アカマツなども燃料などとして活用されていたということもあり、松茸が生育する環境がそこかしこで整っていました。
しかし、現在ではアカマツなどは燃料に利用されなくなり、過疎化も進み、里山に手が入れられず、自然の状態に戻ってしまいました。落ち葉などが堆積したままの状態では、松茸は育ちにくくなります。さらには、マツクイムシなどによって、松が枯れて減少したことも手伝い、今では採れる量が激減してしまいました。
また、松茸は、シメジやシイタケのように人工栽培する事が難しいといわれており、自然発生に頼るしかありません。
こうしたことから、松茸が非常に高価であることが頷けますね。

こうした状況下、松茸の人口栽培は長年の悲願です。そんな中、韓国が世界で初めて、松茸の人口栽培に成功したというニュースが飛び込んできたのには、大変驚きました。日本国内では、各地で研究が続けられているものの、未だ成功に至っていません。
日本での人工栽培が成功しない限り、国内産は相変わらず1本数万円という超高級食材であり続けます。マツタケの人工栽培は1千億円市場ともいわれており、日本にとって成功が待ち望まれる研究開発のひとつなのです。
 

■松茸の味わい方

 
松茸が日本人に愛されている理由は、なんといっても芳醇な香りではないでしょうか。では、この香りの正体は何でしょう。
この香りは、「マツタケオール」と「メチルシンナメート(桂皮酸メチル)」という芳香成分です。特に、松茸特有の香りを出しているのは、メチルシンナメートのようです。
日本人は、この香りが大好きですね。しかし、海外では、松茸の香りを嫌っている国もあるようです。革靴にこもった匂いなどと言われたりもするほど臭いと感じるというのです。感覚の違いには、面白いものがありますね。
 
少々脱線しましたが、松茸の香りを楽しむために、松茸を選び、調理し、保存する際には少し気を遣って下さいね。
 
まず選び方です。
松茸は「かさ」がつぼんでいる方が、味わいが豊かで香り高いといわれています。ただ、松茸特有の香りはかさの部分に多く含まれているので、強めな香りがお好みの場合は、かさが少し開いたものを選んで下さい。しかし、開きすぎていると、香りが2日もすると飛んでしまいます。また、開ききったものは、すでに香りが飛んでしまっています。
軸は、しっかりしていて、短く、丸いものがよいとされます。
他には、茶色と白のコントラストがはっきりして、表面が乾燥していないことなどに注意しながら選ぶとよさそうです。
 
収穫から日が経つと、どんどん香りや味が落ちてしまいますので、入手後はすぐに召し上がって下さい。どうしても保存したいという場合は、乾燥に注意します。水に濡らしてよくしぼったキッチンペーパーで松茸を包み、冷蔵庫の野菜室で保存し、早めにいただきます。
 
調理する際、水洗いすると、松茸の香りや風味が落ちてしまいますので、土がついていた場合は、濡れたふきんで、やさしく拭き取ります。
カットする場合は包丁で切るよりも手でさいたほうが香りが損なわれず、風味豊かに仕上げることができるので、是非試してみて下さい。石づきをそぎ落としたら、かさに切れ目を入れ、切れ目から軸に向かってさくと、綺麗にさくことができます。さく時、ふわっと香りが広がるのがわかると思います。
ご飯と炊きこむ場合は気にする必要はありませんが、加熱しすぎると食感や香りが軽減してしまいます。
豊かな香りを楽しむためには、松茸ご飯、お吸い物、網焼き、どびん蒸しなど、できるだけシンプルな調理法が向いていますね。
 

もう少しで、松茸の時期がやってきます。この時期だけの香り、味わいを存分にご堪能下さい。