【食材のこだわり】天ぷらについて【しげよし】

2018/11/19

突然ですが、皆様のお好きな食べ物は何でしょうか。

日本人の好きな食べ物ランキングをみてみますと、すし、焼き肉、ラーメンに次いで人気があるのが天ぷらです。

人気の秘密は、味わいはもちろんですが、四季折々の食材を天ぷらとして満喫できることも大きいのではないでしょうか。何よりも、天ぷらは、素材のもつ良さを存分に堪能できる料理ですよね。

今回は、日本人が大好きな天ぷらにまつわるお話をお紹介いたします。

 

■天ぷらの由来

 

天ぷらは、揚げ物の代表格ですので、油とは切っても切れない関係にあります。

この油ですが、今では当たり前のように手に入りますし、種類も豊富にありますが、昔はどの地域でも大変貴重なものでした。

平安時代、油は宮中に献上されるほどの貴重品でした。料理に使われることはほとんどなく、神祀(まつ)りの灯火に用いられていたようです。

油を使った料理としての最も古い記録は、奈良時代であるといわれています。

奈良時代、寺院では精進料理が普及していました。この精進料理に、中国料理からの影響を受け、油で揚げた料理が精進料理の一角を担うようになります。しかし、揚げ物と呼ぶには程遠いようなものだったようです。

室町時代には、油を使って炒めたり揚げたりした料理が取り入れられるようになり、安土桃山時代になると、ポルトガル人によって、長崎へ伝えられた南蛮料理が流行し、様々な揚げ物が登場します。これが天ぷらの起源なのではないかとされていますが、まだ一般的に普及していたのではなく、特権階級の人々だけが食することのできるご馳走でした。

1543年に鉄砲がポルトガルから日本に伝わったことは、ご存知の方が多いと思いますが、天ぷらは、鉄砲伝来とほとんど時を同じくして、日本に伝えられたのですね。

江戸時代に入っても、油は、まだまだ一部の特権階級が使うことのできる貴重品でした。

この時代に、菜種油が量産できるようになり、やっと一般庶民にも普及し、江戸の町では屋台で食べることのできる料理として、天ぷらが、庶民にも親しまれるようになりました。

地方から江戸に単身仕事に来ていた職人も好んで食べたとされています。油料理はエネルギーになるので、職人の力の源になっていたことが想像できますね。

面白いことに、天ぷらは、江戸の町で普及しましたが、遠い京都では、油を使わない質素でヘルシーな料理が主流でした。油を使用したお料理が少ない京料理の由来です。

ちなみに、油が一般的に食用として広く使われるようになったのは、文明開化により、西洋の食事が広がった明治時代からといわれています。

 

■天ぷらの語源

 

天ぷらの語源で有力なのは、ポルトガル語で「テンポラ」と呼ばれていた習慣が元になっているという説です。

ポルトガルには、季節が始まる最初の3日間、祈りを捧げ、節食をするという四季の斎日がありました。

この期間中は、肉類を食べることが禁じられていましたので、魚などに小麦粉でできた衣を付けて揚げた料理を食べていたようです。この料理が、ポルトガル人から日本に紹介され、「テンポラ」が転じて、「てんぷら」になったといわれています。

ポルトガル語には、まさに、「テンプラ」という言葉もあるのですが、薬味という意味だそうですので、「テンポラ」から転じたと考える方がよさそうですね。

天ぷらは、漢字で「天麩羅」と書きますが、日本に伝わった当初にこの漢字があてられました。天麩羅の麩は小麦粉を、羅は薄くつけた衣という意味です。下ごしらえした素材を天まで上がるように揚げるという意味が天にこめられ、天麩羅とあてられたようです。

天麩羅の衣が美しく素材にまとう様子を、漢字が綺麗に表現していますね。

 

■天ぷらにまつわる逸話

 

徳川家康は天ぷらを食べ過ぎて死んだという説をお聞きになったことはありますか。

駿府(現在の静岡県)で暮らしていた家康のもとへ、当時珍しかった天ぷら(鯛の天ぷらだったといわれています)が献上されました。家康は天ぷらをとても気に入り、一気に食べ、その後体調を崩し、亡くなってしまったという説があるのです。

家康というと「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」と謳い、とても慎重で用心深い人物だと評されています。当時としては非常に珍しい料理を、しかも食べ過ぎるほど食べたということは、家康の伝えられている性格から考えますと、信じられないような気が致しますよね。

家康は、慎重な性格であったことは確かなようですが、同時に大変好奇心旺盛な人物だったことも知られています。

初めて目にする天ぷらに好奇心が刺激され、口に含んでみると、それはそれは美味だった時の家康の気持ちが伝わってくるような気がします。

きっと食べ過ぎるほど、召し上がったわけではなく、当時73歳と高齢であったことに加え、普段食べなれていない油料理で消化不良を起こしてしまったのかもしれません。

しかし、家康が天ぷらに魅了されたことは確かなようです。

 

今日では、天ぷらは料亭などでの高級料理としてだけでなく、家庭でも手軽に作ることができる料理としても多くの人々に愛されています。野菜嫌いの子供たちも、天ぷらならどんな野菜でもパクパク食べてくれますよね。

秋となり、美味しい旬の食材は、本当に天ぷらによく合います。秋鮭やハゼ、秋ナス、銀杏、栗など、今の季節ならではの食材を是非天ぷらで召し上がって見てください。