【四季折々】みぞれ【しげよし】

2018/01/22

 
和食の世界では、「見立て」ということをよくいたします。ものを本来あるべき姿ではなく、別の姿として見るのです。冬は、食材で雪などを表現することをよくいたします。今回は、ご家庭でもおなじみの「みぞれ」についてご紹介いたします。
 
■和食の見立ての王様は「雪」
 
 冬がいよいよ深まってまいりました。今年は雪が多いようで、スキー場などはとてもいいコンディションみたいですね。
 この「雪」、和食の世界では、「冬」の世界観を表現するのによく使われます。たとえば、氷餅を削って霜に見立てたり、つぶしたユリ根を丸めて小さな雪だるまを作ったり。和食は、素材をおいしく料理することはもちろん、季節を表現することが大切なのですね。
なかでも、皆様になじみが深いのは、「みぞれ」かと存じます。みぞれ煮、みぞれ鍋など、ご家庭でもよくお作りになるメニューではないでしょうか
そもそも、みぞれとはお天気用語です。雪が空中で解けかけたため、雪と雨が同時に降る現象の事で、雨から雪、雪から雨に変わる時に見られます。氷雨ともいいます。
ひょう(雹)は直径5mm以上の氷の粒が大きくなった氷の塊、あられ(霰)は直径5ミリ未満の氷の粒で、その違いは氷の粒の大きさで判断されます。みぞれと、ひょうやあられとの違いは、みぞれは雨と雪が同時に降る現象なので、氷の粒ではなく雪の結晶があるところです。
 
■「する」と「おろす」の違い
 
料理の世界では、雨交じりの雪に見立てたすりおろした大根やキュウリを、「みぞれ」という名で呼びます。すりおろす、と言いますが、本来、「する」と「おろす」は別です。
手元にあります国語辞典を引きますと、「する」とはこすって細かく砕くこと、「おろす」とはおろし金ですりくだくことと書いてあります。料理の世界では、「おろす」は鋭い刃で組織を崩すことです。「する」は刃というより、陶器などのあまりとがっていない凹凸で、細かく崩すことです。区別が難しいのですが、簡単に言えば粗さと滑らかさの違いです。「おろす」よりも「する」ほうが細かく、なめらかです。
 
■おろす食材によって道具を使い分けます
 
おろし方は味にも影響しますから、素材や用途によって道具を使い分けます。
たとえば、ワサビをおろすのに鋭い刃は向きません。サメ皮を張った板のように細かな目で、「の」の字を書くように練り込みながらすりおろします。こうすると辛みと香りが増します。
ショウガはワサビと違って繊維が硬いので、細かい金属の刃が適します。繊維を短く切り、うまみと香りを持った汁を抱え込ませるのがこつです。
山芋は軟らかいので、鋭い刃に当てるとシャリシャリと割れて、滑らかになりません。陶器のすり鉢のように目が甘いもので、細胞をつぶさず粘りを出します。さらにすりこぎですり、ふわっと空気を抱え込ませます。
大根やニンジンのように硬いものは、あまり細かい刃でおろすとジュースのようになってしまいます。金属の鋭い刃で食感を残し、汁を抱え込ませます。
また、素材そのものの味を生かす道具に、鬼おろしがあります。竹製の目の大きな刃で、塊が残るくらいに組織を粗く崩します。豆腐を手で崩すのと一緒で、これでおろした素材は表面積が大きいため、ほかの素材にくっつきやすく、なますや漬物、汁物、つみれに向いています。
 
■大根おろしのみぞれ煮はおろしを洗うのがコツ
 
大根おろしを使ったみぞれ煮をお作りになるときは、おろしは加熱するとくさみが出るので、熱を加える前に水で洗って水気を絞るといいでしょう。酢の物にする時も、みぞれの汁気を絞ったり、洗ったりします。味は消して、見た目と食感を生かすのです。よく切れる刃でおろした大根はこしがあり、おいしく仕上がります。
大根の辛みは「イソチオシアネート」という成分によるもので、胃液の分泌を高め消化を促す働きがあります。また、大根にはアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなど、胃腸の働きを助ける数種類の消化酵素も含まれています。
冬の疲れた胃腸には、みぞれ煮やみぞれ鍋がぴったり。ぜひ、みぞれに冬を感じながら、ご家庭でお楽しみくださいませ。
 
皆様のかけがえのないひとときのために、ご期待以上の品質をご提供させていただけるよう、私どもしげよしは本年も和食の心を追求してまいります。どうぞ、お引き立てのほどよろしくお願いいたします。